書評:『強いAI・弱いAI』


2017年 11月 01日

強いAI弱いAI (409x600).jpg 強いAI・弱いAI
研究者に聞く人工知能の実像

鳥海不二夫著
四六判
274ページ 
ISBN978-4-621-30179-1
発売 2017年10月26日
定価 本体1,800円 (本体)


本書は、10月7,8日にあったMATH POWER 2017 で、丸善出版から一押しの本として紹介された本である。
そのときにはまだ本が完成された状態ではなく、大きな紙に印刷され、その紙を折りたたんだのをまとめただけで、製本、裁断が行われる前の状態でだった。
あと10日ほどで出るからと、製作中のホカホカの状態の本を見て、個人的には非常に懐かしいものを感じた。

本書は、今のAIフィーバー状態に対して、ちゃんとAIを理解して欲しいという本と言えばよいだろう。
AIがブームになるとき、AIは常に「何でもできる」と捕らえられる。
囲碁、将棋でプロ棋士に圧勝する強さになったこと、医者よりも正確に病気の診断が出来た例などがでてくると、これはすごい、何でもできると思われる。
つまり、AIを、過大評価も、過小評価ではなく、適性評価して欲しいということで、専門家へのインタビューを中心にまとめた本である。

強いAI、弱いAIについては専門家の考えも一部異なるし、そもそもAIには定義さえない。
それでも、何か特定のことに特化しただけの専門AIは弱いAIでしかなく、とても人の知能にかなうものではない。
さらに、専門家により、AIへの取り組み姿勢が違うことも分かる。つまり、まだ答えなどない世界であることが分かる。
意識、自意識、喜怒哀楽、欲望、、、、などがAIに入らないと、鉄腕アトムはできないと考えられている。

それでも、脳の構造がゆっくりであるが徐々に分かってきている。
今のディープラーニングは層の数をやたらに増やしているが、それは違うはず。
どうやったら意識、自我、そんなものが生まれてくるのか、まだ全然わかっていない状態なのだ。

シンギュラリティが近いうちにやってくると騒いでいるが、今のAIはそんなに賢くない。
人間を滅ぼしたりするような感情はまだ持てないレベルのAIの研究しかないので、安心して大丈夫だと。

・・・・・そういうことが延々と書かれている。

そういう内容なので、AIのプログラムを弄っているような人には、とくに読む必要はないようだというか、既に知っている内容だと思う。
しかし、周囲のAI誤解者、AI否定者などに説明するのは参考になる。

内容、つまり「強いAI・弱いAI」の区別と、現在のAIの状況を理解するには、特別な理解は必要なく、かつ本書は第一線で研究・活躍している関係者の話なので、多くの本のように、煽ったり、適当に誤魔化したりするところを避け、冷静にAIの専門家でない人が現状のAIを冷静に見ることができるようになる一助になると思う。
そして、この意味で本書の価値は高いと思う。

弱いAI,確かに何とかバカというレベルのAIでしかない。
でも、強力な専門バカなので、専門バカ的な仕事をしている人は、弱いAIに仕事を奪われる可能性は十分にある。

人にAIの説明するときに、本書をいろいろ利用しようかな。