棋士とAI
――アルファ碁から始まった未来
叢書 岩波新書1701
発行 2018年1月19日
サイズ 新書, 224頁
ISBN 978-4-00-431701-2
価格 780円(本体)
岩波書店から、AI囲碁、要するにアルファ碁に関する書が、岩波新書として出された。
タイトルにもあるように、棋士がAIをどう考えているかが語られている。
著者の王 銘琬九段は日本のトップ棋士の一人で、本因坊と王座の経験がある。
それ以上に、コンピュータ囲碁にとても関わりの深い棋士として知られている。
台湾出身ということもあり、コンピュータ囲碁の台湾チームを結成して、電気通信大学で毎年開催されていたUEC杯コンピュータ囲碁大会に参戦した。
また、囲碁解説者としてもよく知られている棋士の一人である。
ここ2年間、つまりアルファ碁なるものが現れ、あっという間にプロ棋士のレベルを追い抜き、まだまだ強くなりそうだが、アルファ碁を作ったディープマインド社は、囲碁を強くすることが目的ではなく、もっと汎用的なこと、そしてプロの棋譜も使わないアルファゼロを作り上げた。
最後に発表したものは、もう同じプログラムで、囲碁、将棋、チェスを自習して強くなってしまった。
本書は、とくに囲碁についての知識は必要なく、最低限の説明は本書の中にもしてある。
最近の囲碁プログラム、とくにディープラーニングを取り入れて強くなっているプログラムの場合、プログラマには囲碁の知識は不要になっている。
実際、開発チーム全員が囲碁が打てないという状態でも、強い囲碁プログラムが作られている。
もう、棋士と囲碁AIが強さを勝負する時代は終わってしまい、そういうタイプの研究は終止符が打たれている。
囲碁AIと棋士がどう付き合っていくか、それが問題である。
将棋も状態は似たようなものである。
プロ棋士がAIプログラムを使って勉強して新しい手を習得し、実戦で試して勝つといのは既にかなり広く行われているようだ。
そういう状態で、多額の賞金がかかったタイトル戦など、今後も続いていくのだろうか。
AIがアマチュアの相手をして、上手に指導して、短期間にレベルアップするようになる可能性は高い。
要するに、今騒がれている e-Learning よりもよほどきめ細かい、高度な教育システムの実験が囲碁あるいは将棋で行われるかもしれない。
これは、一般の教育にも応用される可能性が高いだろう。
まだ棋士の仕事がなくなる気配はないが、今後どうなるかは分からない。
それ以上に、棋士は強いものへの好奇心が非常に強いようで、負ければ負けるほど挑んでみたい人種のようだ。