さて、表題の疑問に答える前に少し、歴史を復習してみましょう。
そもそも営業・企画・マーケティングという職種は、どうやって形成されてきたのでしょうか?
最近でこそ企画・マーケティングという職種がどこの企業でも当たり前になりましたが、その昔こうした業務は、すべて営業の範疇に入っていました。
外資進出による企業組織の変化や企業経済学の発展、市場の成熟などにより、営業という部門からそれぞれスペシャリティな領域が切り離されていったのです。
図で見てわかるように、マーケティングも企画も「モノ(価値)を売る」という営業技術の手段・手法です。非常に大きな枠でいえば営業なのです。さらに次の図を見てみましょう。
最近はさらに職種が細分化され、企画よりの提案(コンサルティング)営業とマーケティングよりのプロダクト営業なども、一般的に使われるようになってきました。
さて、これら図の中心に、「営業コア」なる領域が確認できるでしょう。そしてこの中に、営業を営業たらしめ、その他の非技術系職種にも非常に重要なスキルが隠されています。
それは「落としどころ力」と「観察眼」です。
落としどころとは、着地先のことです。業務には交渉だったり、提案だったり、契約だったり、さまざまな着地先があります。そして「落としどころ力」とは、落とすべき着地を見定め、交渉や提案を行い、相手の同意を得て物事をスムースにまとめる力のことをいいます。
これが営業だけでなく企画・マーケティングにも必要な、もっとも重要な営業スキルです。「落としどころ力」があってこそ、ギャップを埋める提案やその論理補強となるマーケティングが生きてくるからです。逆にいうと「落としどころ力のない提案やマーケティングは無価値」といえるでしょう。
「落としどころ力」をさらにブレイクダウンすれば、提案能力と交渉能力に分かれます。優秀な営業マンは特に「交渉力」が大得意です。
例えば、優秀な営業マンは交渉において、決して勝ち負けの勝負をしません。一瞬自分たちが勝ったとしても、それでは結局お客さまを失ってしまうからです。そして「損して得取れ」的な負け試合もしません。該当の交渉で相手から譲歩を勝ち取らなくてはパートナーシップなど芽生えるはずもなく、次の取引で対等に立てず、結局下請け先として価格勝負に持ち込まれ、損をしてしまうからです。
だから必ず、winwin か、痛み分けの状況を作りだそうと努力します。
漠然と外部から見ていると、営業マンは一様に契約を結んでくるようにみえますが、実は微妙かつ濃厚なニュアンスが含まれており、それは結局、対顧客とのつきあいの長さやパートナーシップという形で、長い期間を経ると現れてきます。
もうひとつの営業コア「観察眼」も非常に重要です。
観察眼は「ニーズ発掘・把握」と「機を見る力」に分かれます。
「ニーズ発掘・把握」とは、いわゆる仕事の匂いをかぎ分け、モノになるかどうかを鑑定する能力で、営業のポータルともいえる能力です。この能力が高い人ほど、持ってくる案件や契約が確かですし、先方との意見や要望のズレがありません。これは生まれつきのセンスもありますが、「インタビュー能力」が高く「人と接し、人を見るという経験蓄積」を上手に活用していることになるでしょう。
「機をみる力」とは立ち位置を確認し認識する力のことです。自分や自社の置かれている状況、外部的な機会をきっちりポジショニングすることは非常に重要です。この状況を見て、今は押すべき時か、引くべき時か、進め方や舵取りを考えるのです。
例えば優秀な営業マンは、自分の置かれている状況が不利なときには決して交渉しません。そんなときに契約の話をすれば、明らかにこちらが譲歩しなければいけないことが増えるからです。そんなときは自分たちの立場が回復するまで、交渉を先送りにしたりして、好機を待ったり、作りだす努力をするのです。
この能力が欠如すると、場違いな対応や右往左往を繰り返す事が多くなり、特にトラブルが発生した時などに歴然と差が現れます。
このように「落としどころ力」「観察眼」は営業コアを成すものであり、特に営業経験を積むことで、一番鍛えられる部分です。しかも下の図を見て頂きたいのですが、ここから多くのキャリアパスが発生します。図一番右のすべての力がまんべんなくついてくると、きっとそれは誰がみても一流コンサルタントの姿となっていることでしょう。
ほら、なんとなく、営業ってすごい気がしませんか?
もちろん、IT 業界においては技術的な裏付けや知識は必要ですし、プログラム経験もあればあるに越したことはないのですが、必須ではありません。
営業コアを鍛えることこそが、IT 業界における一流非技術者への一番の近道です。