マーケティングというと、アンケートを実施したり、統計や調査資料を読み込んで分析したりと一種、数学的な匂いがする職種です。まずもってデータが集約され、データと戦う数学者・哲学者のようなイメージがありますが、表題では「芸術家」が向いているとなっています。なぜでしょうか?
答えは、マーケティング業務を行う上でもっとも大事な2つのスキルに関係があります。
それは、フレーミング能力とポジショニング能力です。
フレーミングとは、枠を設定することです。いわゆるグラフの縦軸と横軸の決定ですね。収集したデータをこの線上にばらまくわけですが、この技術に優秀なマーケターとそうでない人の差が歴然と出ます。
例えば会議などで、競合他社比較資料などが配布されるとき、アレ?って思うときはありませんか?「なぜ、ここと比較してるの?」とか、数字の位が変だとか。
そういう資料を作ってしまう人は、残念ながら、このフレーミング能力が欠如しています。
ポジショニングとは、対象の商品や企業、事業の位置づけを設定することです。市場の方向性や性質を見極め、競合の力を正当に評価できる能力がまず必要ですが、さらには、比較・差別するためのオリジナルを生み出す言語スキルも必要です。
マーケティングは学問体系や研究論文も充実しており、一種絶対のセオリーがあります。しかし、それらは過去の結果、過去の経済や市場についての分析に過ぎず、それらを現在の企業での実践にそのまま流用しようとすると、落とし穴にはまります。
マーケティングの初歩は SWOT 分析や、プロダクトポートフォリオマネジメント( PPM )など、最初からフレームとポジションが決められているツールがふんだんに用意されており、入り口は簡単なように思えます。しかし、下図のようなフレームがそのまま使えることはむしろ稀であり、そこから先に進もうとすると、先に述べた「フレーミング能力」「ポジショニング能力」が問われます。
実践では、日々刻々と変化する市場状況や競争要因を掴もうとすること自体、範囲が非常に広大で、そもそもの調査対象に関するデータにノイズが入り過ぎてしまいます。また、下手に捨て過ぎると恣意に満ちた自己完結データになってしまいますので、「フレーミング能力」が重要です。
また、せっかくうまく集めたデータも、適切なポジションニングをできなくては、無意味な施策やアプローチしか取れないでしょう。
大学でマーケティングを学んだ新人が、実際の企業で苦戦するケースは多いのですが、ほとんどが、こういった既存ツールや戦略を使うということに主眼が置かれていて、実際の体系的な知識を使いこなせていないのが原因です。そして知識を使いこなす応用には、「フレーミング能力」「ポジショニング能力」が重要なのです。
ここで主題に戻りますが、上記の 2 能力、何かを連想させませんか?そう、画家や彫刻家に代表される芸術家です。
どんな題材をどのように描くかは、まさにフレーミングですし、どの素材をどの大きさでどういった配置にするかはポジショニングです。実践的で効果的なマーケティングとは、ビジネスというキャンパスに描くひとつの芸術といえるでしょう。
これは、数字やデータを分析する理系的な本質と、構図し配置する芸術家気質を併せ持つ、まさにマーケティングの奥の深さと魅力を端的に表すエピソードだと筆者は考えます。
以上、5 回に渡って、IT における非技術職の本質や必要とされるスキルを簡単に説明してきました。営業や企画、マーケティングに関する書籍は、それこそ膨大な数の出版がされていますが、もっとも基本的な、実践における職の本質や実態、そしてキャリアパスが書かれたものがないことに、ずっと筆者は疑問を持っていました。
筆者自身、まだまだ日夜修行を積んでいる身ではあるのですが、非技術系職への扉を叩こうとしている入門者のみなさんへ、何かを届けられたら幸いです。
それでは今度はライバルやよき仲間として、ビジネスの場でお会いしましょう!