15階建て自社新社屋を構えた業界でも大手の K 住宅産業では 1 日当たり数百人規模の来客がある。事業部独立採算性の K 社では来客も各フロアにまんべんなく存在しているとともに、フロアの間の移動も多い。
総務部 Y 次長は、10 基あるエレベーターの上下のタイミングが悪く、来客者がつねづねイライラしている光景を目にしては気になっていた。このままでは商談にも悪影響がでることを憂慮した Y 次長は、各フロアのエレベーター利用者に準じた優先制御ができないものかと、日ごろ取引のあるコンピュータメーカーの B 氏に相談した。
コンピュータに不可能は無いと自認する SE の B 氏は早速、エレベーター各社を回り、制御理論や構造を調査するとともに、人員のセンサーキャッチ方式、あいまいさを定量化するためファジー理論の応用技術をベースとしたシステム化構想をつくりあげた。ところが、調査から提案まで 2 カ月近く費やしても今一歩しっくりこない。エレベーターの優先制御は可能であるが、どの状態を優先すべきか判断がつかないのである。
待ち利用者が多数のフロアを優先する
・・・・・少人数のフロアの人はいつまでも待つことになる
急いでいる人を優先する
・・・・・そんなことは当人に聞くしかない
神経質な人を優先する
・・・・・コンピュータで性格分析はできない
提案するシステムが大掛かりの割には効果がそれほど期待できない不安のまま、B 氏は Y 次長の待つ総務部へ向かった。
タイミング悪く K 住宅産業ビルのエレベーターはすべて上の階で停止していた。多少イライラしながらも提案システムが相当コストオーバーすることを憂慮しつつ B 氏はエレベーターを待った。ふと横を見ると妙齢な女性が花束を抱えて、同じようにエレベーター待ちをしていた。イライラも忘れ、何気なく見ていると、いつのまにかエレベーターが到着してしまった。
B 氏はエレベーターに乗ることも忘れ、考え込み始めた。そもそもシステムの目的は何であったのか。利用者のイライラを解消することであり、エレベーターの優先制御ではない。
Y 次長の 「エレベータをどうにかできないか」の話からエレベータ制御を目的にしてしまい、なぜそれが必要かの問題の本質を見失っていたのである。
各フロアに女性を配慮しておく…は問題があるにしても、花を飾る、絵を掛ける、鏡でもいい、利用者のイライラは大きく解消するに違いない。もちろん、花や絵、鏡ではコンピュータメーカーとして商売にならない。要は楽しく利用者の気を引くことである。
B 氏は社へ戻り、スタッフとミーティングの末、エレベータースイッチと連動するマルチメディアシステム ( テロップ、静止画、動画 ) を考え、各フロアに表示装置を配置することとした。流す情報は、四季感ある会社案内、新製品紹介、時事ニュース、花、絵など…。
B 氏の提案は、アイデア性や予算の点からも絶賛され K 社に承認されたのは言うまでもない。
半年が経過しシステムが運用された。評判も上々である。しかし B 氏は素直に喜べない。システムはコンテンツ代も含め、1000 万をオーバーしてしまった。多摩川の土手に咲く野の花一輪と今回のシステムとではどちらが効果的か。どう見てもシステムは花に完敗である。
タイムインターメディアの営業本部 ( 企画部、営業部 ) が、今回のケースのシステム提案で「各フロアに花を配置」、 「見積もり金額 3,000 円 / 月 × 15 フロア= 45,000 円 / 月」を作成したら本物である。