このところ、人工知能がブレークしまくっている。書店には、人工知能あるいは人工知能関連の専門用語をタイトルに入れた書籍が溢れている。こんなに本が増えると、どれを読むか選ぶだけでも大変である。
そんな中、
人工知能学会から『人工知能とは』という本が出た。人工知能学会監修ということで、この本を読めば人工知能についてしっかり理解できるかもと思わせる。
表紙には、鉄腕アトムとその仲間たちが描かれており、とても易しい本に見える。
この本、非常に売れているようである。何しろ、販売前に予約だけで売り切れて、増刷したほどである。
『人工知能とは』監修:人工知能学会、編集:松尾 豊、著者:多数、出版:近代科学社元々は、人工知能学会の学会誌の連載で、単行本化に際して人工知能学会員だけでなく、一般の人も対象に加えるため、加筆修正したようである。
この本は、現在人工知能の様々な分野で活躍しているトップ研究者13名が、自分がやっている人工知能研究についてあれこれ説明している本である。コンピュータ上だけでやっている人もいれば、ロボットなどを使っている人もいるし、脳科学の成果などを生かそうとしている人や、地球の生命の脳とは無関係な人工脳をつくろうとか、様々な立場から書かれている。
一言で言えば、ぜんぜん意見にまとまりが無い本なのである。というか、人工知能とは、そもそもそういう世界であり、今も混沌として、カオスのような状態である。今まで何度かの人工知能ブームがあったが、これまでは成果らしい成果、人間の能力を超えるような成果が出なかったのだが、今回は、たとえば囲碁のアルファ碁のように、トッププロを負かすような成果が出始めているところが違う。
「人工知能とは?」という質問に対して、決まった答え、定義などないというのが、この本の主張であろう。実用的な知識、理解が何か得られるかと思って本書を読むと撃沈するであろう。でも、人工知能が将来どのような影響を与えるかについて、いろいろ煽っている本はあるのだが、冷静に考えてみるには本書はとても良い。形而上学的な部分もあって、かなり読みにくいかもしれないが、こういうレベル、特に最先端の研究者が何を考えているかを知ることは有用である。
実際に人工知能をいじるには、ちゃんとプログラムを組んだり、ツールを使ったりしなければいけない。技術者・経営者の多くは、そういう本を求めていると思うが、人工知能が近い将来社会に影響を与えることが確実になって、人工知能と倫理問題とか考えるには、「そもそも人工知能とは何か?」という根源的なことを考えないといけない。