今年3月、グーグル・ディープマインドの人工知能囲碁プログラムアルファ碁と、世界最強の囲碁棋士イ セドルの対戦が行われた。全5局の対戦で、賞金として百万ドルがかかっていた。
試合前の予想では、イセドルが勝つだろうとの予測が多かったが、結果はアルファ碁の4勝1敗に終わった。
現在のゲームの中では最も難しく、まだ10年くらいは人工知能はトップ棋士には勝てないだろうと言われていた。
それが、多くの人の予想に反して、アルファ碁の圧勝になってしまった。
これを契機に、知的ゲームだけでなく、人間のあらゆる知的な作業が人工知能に取って代わられるのではないかという危機感が急に沸いてきた、あるいは現実味を持ってきたと思った人が激増し、人工知能について考えざるをえない風潮になったと思う。
さて、これだけ有名になってしまった歴史的な試合だったので、インターネット上に多数の情報が存在する。
また、試合のビデオは5試合ともYouTubeに存在する。
Match 1 – Google DeepMind Challenge Match: Lee Sedol vs AlphaGo (第2局以降省略)
技術的なことも含めて、ネット上に大量に情報はあり、さらにNatureに記事も載り、さらに様々なところで取り上げられた。
そんな中、7月28日に、東京創元社から、
『アルファ碁 vs イ セドル』という本試合の解説書の翻訳が出た。
帯には人工知能学会の前会長の松原氏の言葉「人工知能ではなく、囲碁棋士を内心応援していました」とあるが、この本、人工知能の解説書ではない。
多数の棋譜があり、アルファ碁の手も、イセドルの手も、さらには解説者の考えた変化などもかなり細かく解説されている。また、プロ棋士たちが、この試合の進行をどのように見ていたかもいろいろ書かれていて興味深い。
対局のレベルは高く、アルファ碁の打った手は良くない手と思っていたら、手が進むに従い非常に良い手だったということが何度も出てくる。もはやプロ棋士も判断に困る程度のレベルになっていることが分かる。
でも、アルファ碁の打った手が全てすばらしいかったかというと、そうではない。私にさえ良くないと分かるような手もときには打つようだ。実際、バグにより評価を間違えて変なところに打ってしまったこともあるようだ。
つまり、まだアルファ碁は発展の途中で、まだ何段階か強くなりそうな印象を受けた。
私も、2020年頃までは、人工知能が勝つのはないだろうと思っていたのだが、グーグル・ディープマインドは膨大なリソースをつぎ込んで、数年の時間を乗り越えた感じである。毎年毎年かなりのペースでCPUやGPUの性能、とくにコア数など並列処理能力の向上が著しいので、そのあたりをお金で数年縮めることは普通にあるだろう。
それに、人工知能は疲れない。対戦相手が人間だと練習が限られるが、対戦相手もコンピュータにしてしまえば、24時間連続で強化学習が可能になる。こうして、一度枠組みができてしまうと、一気に強くする手立ては存在する。
さて、ちょっとハード的な話を書いておこうと思う。情報は色々あるのだが、試合前に出されたアルファ碁の紹介記事
AlphaGo and AI Progress 2/28/2016 には、アルファ碁の強さと、ハードウェア資源についてのグラフなどもあり興味深い。
この記事によると、アルファ碁が非常に手強い相手だということだが、どこまで信じればよいのか不明であった。
アルファ碁は色々なバージョンがあるようで、最大スケールの AlphaGo Distributed では、280GPU、1920CPUで動くようだ。
この試合以降、囲碁ソフトに深層学習を入れたものが増え、ますます強くなったようだ。
UEC杯コンピュータ囲碁大会は毎年電気通信大学で行われており、優勝プログラムが何子か置いてプロに指導碁を打ってもらうという風になっている。来年春の第10回記念大会では大きな変化が起きるかも知れない。